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おとーさんの話3.幕末編の続き。

続き。

異形の構え。
近藤の上を向いた刃は、坂本の太刀に合わせ、木剣をすりあげようとする。
しかし、近藤の思惑通りにはいかない。
意外だったが、次からの数合であっけなく勝負はあった。
攻める坂本の木剣が近藤の切っ先を打ち払う。
刹那。
見事な踏み込みから打ちおろされた坂本の面を近藤は避けられなかった。
勝負あり。
近藤は額から血を流し、片膝を着いた。
湧き上がる歓声。

「何が面白いのか!やはり坂本さんの勝ちではないですか」
隣に向けてそう言った時だった。

「坂本君!坂本君!もう一本!もう一本を真剣で!」

大きな野太い声が庭中に響き渡る。
どよめいた。大きくどよめいた。
どよめくそばから、近藤は弟子であろう細身の男から愛刀を受け取り、手早く抜きさっていた。
何と言う大それた男か。もしくは恥知らずか。
もう一本は解る。解るが、どうだ、真剣である。しかも既に抜きさっている。

坂本。引くに引けないのは当たり前。玄武館での試合である。しかも力差歴然。
千葉の名にかけて一蹴するのみ。と右手を道場へ向ける。
門人がザザザと寄って真剣を手渡す。
坂本の顔に笑顔など無い。
方や近藤。
別人か?豪傑なだけでは無い、凛とした、どこか何かを決した気が漲る。
両の手にある刀が軽く見えた。木剣よりも軽く見えた。
額から流れる血が先程より艶やかに感じる。

蹲踞の構えなど無い。
双方が刀を受け取ったその距離から勝負が始まった。

ジリジリと、ジリジリと、間合いが接近する。

「ゼリャーーーーーー!!」
近藤が一気に間合いを詰める。
迎え撃つ坂本が瞬間、袈裟切りに切りつける。
打ち下ろされた坂本の刃が近藤の受けと接触した時、事態が急変した。
近藤のヤイバがギャギャと坂本のツバまで急速に走る。
よくある事。
いや、そうでは無かった。

真剣。その重さは木剣の比では無い。
坂本の稲妻の様な袈裟切りを受け止めるだけでも一苦労。
しかし、ツバまで走り「鍔迫り合い」には成らなかった。

近藤の受けた刀がツバまで達するやいなや、ゴウとひるがえり坂本の腕ごと刀が弾かれる。
弾かれた後、数瞬静寂が辺りを覆った。

近藤の切っ先は、既に坂本の左の額上にビタと止められていた。
坂本の髪がはらはらと舞う。
「それまで!」

一切の歓声は無かった。
「なんと言う・・・。」声にならなかった。
唖然とした空気の残る中、近藤は一礼を坂本に、一礼を千葉一門の方へ行い、堂々と立ち去った。
強かった。豪快だった。圧倒的だった。
ならば、あの木剣の使いは一体何だったのか。
いつしか、江戸では「技の坂本、真剣の近藤」と囁かれる事になった。



青年は、後年、京を震え上がらせた新撰組の噂が聞こえて来る毎に「そりゃそうよ」と一人ニヤリとした。

終わり。


ちなみに京都での新撰組と坂本竜馬の鉢合わせは、記録とかでは見た事は無い。
この事も、本当であれば、永倉翁とかが話しててもよさそうだが、そんな語録も無い。
なくても良いのだ。
こんな面白い手合わせを「見た」人がいたのだから。

ちなみに、司馬遼太郎(特に燃えよ剣)で新撰組に入った人は、子母澤寛の三部作、特に近藤勇の話を読む事をお勧めする。
近藤と土方のイメージ、見方が変わる。




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