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1999年天皇賞(秋)の思い出

1999年 天皇賞(秋)
忘れもしない

土曜日の夜
コンクリの階段を登りきり
僕が2階の事務所に入ると
後輩3人が
仕事終わりのだらけた態勢で
机いっぱいにスポーツ紙を広げて
競馬予想を語っていた

年長の後輩Tが
後輩2人に言い放つ
「スペシャルは終わってるわ。勝たれへん」
赤いペンがクルクルと
彼の手の中で回る

宝塚でグラスに負け
前走考えられない惨敗
確かに負け過ぎ

「馬体絞ってもどうかな。落ち目や」
Tの赤いペンが新聞を叩く
馬柱のある場所がコンコンと2度叩かれ
9番に赤いバツがグッグッと付けられる

あのダービーが
春の天皇賞が
とてつもない過去の
ほんの一瞬の栄光だと言うように
ダメの印が赤く付く

僕はいぶかしんで
「何を言うとんねん」
とT達に近寄ってスポーツ紙を覗いた

ざっと記事を見る
驚く事に
記者達が評価をグッと下げていた
調教記事も全然やった

「見て下さいよ。どうですかこれは買えんでしょ」
Tが意見を求めてくる

調教では走らん事もあるやろ
最強の相手と戦った敗戦と
たった一度の調整の失敗で
全てが否定されるのか

無性に腹が立った

新聞の横に置かれたその後輩Tのマイセンを
堂々と一本パクる
作業ズボンの右ポケットから
ジッポーを取り出して火を付け
深く吸い込んだ

テイオーもブライアンも復活した
なるほど
とうとう偉大かどうかが試される訳か
ただのダービー馬で終わるンか
春秋連覇を復活で達成する偉大な馬になるか
なるほどな


「スペシャルは勝つよ」
僕は言いきった
いきなりシャシャリ出てきて
タバコをパクッたうえに
Tと2人の後輩はビックリしたが
僕が異を唱えた事で競馬談議が更に熱を増した

この時の僕に
明確な論理なんてものは何一つ無い
実は馬券を買うのはしばらく控えていた
久しぶりだった

ただこの馬は
豊にダービーを与えた馬
「偉大であって欲しい」
「強く有って欲しい」
「もう一度最強の立場でグラスと勝負を」
馬券は買わないまでも
ある程度感情移入をしていた

自然とTとの馬券一騎打ちになった
ビギナーの後輩Uは僕についたが
もう一人の後輩
競馬オタクの後輩KはTについた
軸馬はツルマルツヨシ
傍から見れば完全に分が悪い組み合わせになった

僕はもちろんスペシャルを軸に
馬連を買う事になった
既にシルバーコレクターとなっていたステイゴールド
同世代間で沈むキングヘイロー
新世代になり苦しみだしたメジロブライト
へ流す

何と言うか
一流なのに(力は有るのに)
勝ちきれない(勝ちきれなくなった)
運に見放された(見放され出した)
悔しさを心に秘めた
そんな奴らへの応援馬券だった

一枚500円やそこらの馬券
別に鉄火場の臭いもしない賭け事
ただ
久しぶりに何かに賭ける楽しさがあった


日曜日

早朝から京都の現場へ仕事に向かう
出走時間は完全に仕事中、作業中
ワンセグも無い時代
カーラジオだけが頼り

それでも僕と後輩達は
現場に到着し
打ち合わせを済ませ
お互いを鼓舞し
阿吽の呼吸で作業を進めて行った

今もセピアな記憶の中で
その時の胸の感覚や気持ちが思い出される
何かわけのわからない力を感じていた
不思議な連帯感
ふしだらな団結
そんな感覚を
作業集団の一部だけが共有していた
昼休憩も小休止も
一つの区切りに向けて調整されていた
15時40分あたり
その時間帯へ全て向けていた

僕はヘルメットをかぶり直して
時間を確認する
15時30分
「よっしゃ。休憩しよか。腰おろしてゆっくりしてくれ」
Uが僕に目配りしてから
サッと車へ走った

スポーツドリンクを持って
タバコをふかして
皆が車の周りに集まり出した
ガサガサと
3台の作業車の周りで新聞が広がる

事務所で話していた後輩たち以外も
ゾロゾロ集まってくる
みんな聞きたいラジオは同じだった

砂利の上に座り込んで
あき缶にタバコの吸い殻が詰め込まれる
そしてすぐ
誰かの新たなタバコに火がつく
曇っていた様な気がする
京都はあの時曇っていた


とうとう実況中継が始まった
皆が聞き入る
スペシャルは発走してからずっと後ろ
実況が「最後方」とか「後方」とだけ言う
いや3コーナー回っても後方としか言わない

「ほらけーへんでしょ」
後輩の一人が勝ち誇って言う

東京の(当時でも)長い直線に入っても後方

「えーーー来る言いましたやん」
僕を信じてしまった後輩U
文句が出始める

そんな刹那
実況から僕の欲望通りの叫びが聞こえた
「外から一気にスペシャルウィーク」
ラジオから待ちかねた叫びが連続する
「外から一気にスペシャルウィーク」
叫びは回転数を増すように聞こえてくる

僕らも
「来た」「やっぱり来た」「うおおおお」
一気に叫び出す

実況の叫びが終わるまで
ほんの少しの時間
ラジオ実況と僕らは完全にシンクロした
確かに
カーラジオの前に
外から一気に詰め寄るスペシャルウィークの姿が
スタンドの観客の叫びまでもが
僕らの目の前に映っているようだった

余韻はしばらくの間
皆を包んだ



雨が降り出した
帰りの車
まだ京都南にも付かない
もう夜や
大阪の事務所に着くまで
まだまだ時間はかかる
一杯になった灰皿をゴミ袋に捨てる
日曜日の夜にご苦労な僕ら

後輩Uはずっと呻いている
ずっと悔しがっている
「くっそーステイは無いでしょ」
「信じるんやったら全部信じたらよかったですわ」
僕を信じたUはスペシャルからは買ったが
ステイだけは外して買ったらしかった
「15万円ですよ15万円」
1000円ずつ流していたようだった
初めての馬券であたりかけの万馬券を逃す
タマッタモノでは無かったろう

僕は清々しかった
まあ500円だけやけど万馬券
十分デカイ
でも馬券が当たった事以上に清々しかった

嬉しい組み合わせでの勝利だった事
レコード勝ちだった事が特に嬉しかった
勝ったスペシャルウィークだけで無く
タイム差の無いステイゴールドの価値までを一気に引き上げた
負けた奴まで助けられた
そんな想いになっていた

いや
そんな良い人っぽい事だけじゃ無いな

スペシャルウィークはやっぱり偉大な馬やった
僕は
僕だけは疑わなかった
そういう「信じる」と言う賭けに勝った勝利感
僕の心を一番満足させていたのは
やっぱり賭けに勝った事やと思う

競馬は深い


僕は渋滞にハマった車の助手席で
スポーツドリンクを飲みほした
そして
横で呻く後輩をそろそろ無視して
清々しく寝る事にした

そんなことまで
しっかり覚えてる

忘れられない日
天皇賞(秋)の日やった









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